うつ病

◎うつ病

・概要・・うつ病は古来からある病気ですが、現代病の側面もあり日本でも近年その数を増しています。長期に亘って抑鬱的、悲観的な気分が心を占め、生き生きとした喜びや楽しさに満ちた感情から遠ざかります。また日常の仕事に対する集中力や注意力が低下し、食欲の低下や不眠、慢性疲労といった身体症状も出てきます。
 うつ病の原因は精神的、肉体的なストレスといわれています。誰しも人生の上で思ったようにならない経験をしてふさぎ込み元気が出ない時はあると思いますが、長期に亘ってこうした状態から回復せず、苦痛を感じている状態を「うつ病」と診断されます。 

 現在西洋医学では投薬治療が中心です。通常は2、3種類の向精神薬に睡眠薬、胃薬を足して処方し、様子を観察して改善がなければ他の薬に変える、という手順で治療が行われています。これで治っていく人は問題ないのですが、多くの患者はこうした薬物療法で治癒に導かれることはありません。そして例え一時的に症状が楽になっても、薬物には体が慣れていき、徐々に効果が薄れていくという問題があります。効果が薄れれば同じ薬であっても量を増したり、もっと作用の強い薬を処方しなければ効果がでません。そうした治療を続けるうちに胃が荒れ、肝臓が悪くなるなどした上に、精神状態も以前より悪化していく方が珍しくありません。
 そもそも20年ほど前にはこうしたうつ病の原因はセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンといった脳内科学物質の不均衡であるとされていました。私もその頃の週刊誌で「アメリカではセロトニンを補充する薬物が作られうつ病に対する「夢の薬」として大いに期待されている」との記事を読んだ記憶があります。しかしその後の経過を見る限り、そうした科学物質補充の薬物療法に対する評価は高いものとはなりませんでした。現在では健康な人に対してセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンの濃度を実験的に低下させても全く気分に影響しない、という研究結果さえ発表されています。

 こうした状況の中で多くのうつ病の患者さんが病院の治療に失望し、我々鍼灸の施術を求めて来院し、良い経過を辿って回復の道を歩んでいる方が大勢おられます。東洋医学では感情の働きは内臓に由来するという考え方があり、内臓の調子を整えることで精神状態の回復を促すことができます。また鍼灸の治療は睡眠を深くし、脳の血流量を増やすことで、精神の安定を促す効果があります。敏感な方は治療を受ける度に「頭の中で電気の明かりがパチリと付いたようにスッキリする」と喜んで帰られる方もいます。

 ・治療・・東洋医学では感情は内臓と深い関連があるとされています。肝臓は怒りや計画性、心臓は喜びや憂い、肺臓は悲しみ、脾臓(胃腸)は思慮深さや考えすぎ、腎臓は粘り強い行動や恐れと関係があります。こうした五臓の不調和がうつ病の原因であり、内臓の不調を整えることでうつの症状も軽減していきます。鍼灸治療の目的は五臓の調和を取り戻すことです。

 また「思いが過ぎれば脾を傷る(やぶる)」という言葉があります。つまり「ああではないか、こうではないか。」「こうなったらどうしよう、そうなったらどうしよう。」といったネガティブな思案が続きすぎると胃腸の働きが悪くなるという意味です。まず食欲がなくなります。疲れやすくなって呼吸も浅くなり、声にも力が入らなくなってきます。さらに「胃が安らかでないものは、睡眠が安らかではない。」という言葉もあります。胃腸の働きが衰えると熟睡できなくなるという意味です。

 漢方鍼治療で脈を整えることで自律神経の不調和が整い、ご飯がおいしくなって、眠りが深くなり疲れがとれていきます。以前とは明らかに体調が変わっていくことを感じれば、「また元気な自分に戻れる」という自信がよみがえってきます。私は失った自信の回復こそがこの病気の治療のカギと考えています。時間は掛かるかも知れませんが、元気だった時の自分を取り戻していく為にしっかり治療していきましょう。

 

・養生・・うつ病にとって先ず大切な事は早寝早起きです。多くの研究者が朝日を浴びることで体内のセロトニンが効果的に分泌されると指摘しています。朝日を浴びながら軽い体操や散歩をすることは気分転換を促し、幸福感を高める手助けとなります。
 早起きをする為には早く寝なければいけません。うつ病の方が夜遅くまで起きていても、ろくな事を考えないものです。先ずは過去への後悔「あの時ああするべきではなかった」そして未来への不安「一体自分はどうなるだろうか」テレビやネットを調べ回してわざわざ自分の後悔や不安を補強しようとする人も少なくないのです。そんなことをしていては治るものも治りません。「心配事の9割は現実には起こらない」とも言われています。正しい生活習慣こそが健康のカギです。どうぞ早めにお休み下さい。

・うつとは体の中の気の巡りが悪い状態です。気の巡りを改善する為には「汗を出す」「声を出す」「腹から笑う」の3つが大切です。汗を出す為に運動をしましょう。(人によってはサウナに入って汗を出すとスッキリする人もいますが、これは体質によります。)
 大きな声で歌を歌うことも良い効果があります。一人でカラオケに行っても良いのですが、できれば何人かで合唱すると良いでしょう。人は人の中で癒され、安心するという性質があります。ご家族の方に頼んで寝る前に一曲歌う事にした方もいます。とても良い助けになったと話しておられました。勿論自分が好きな歌、楽しくなる曲を選んで歌って下さい。
 もう一つは笑いです。とは言ってもニタニタするような笑いではありません。お腹を抱えてワッハッハと笑う事が大切です。横隔膜を十分にふるわせて笑う事で酸素が行き渡って体に元気と活力がみなぎってゆきます。勿論ニコニコした笑いも良い影響があると思います。結局大きな声で話し、仲間達と歌を歌い、腹を抱えて笑っている人はうつ病にはなりにくいわけです。うつ病が現代病といわれる理由がわかる気がしますね。 

・ある人は「現代の生活からお祭りが無くなってからうつ病が増えた」と言います。仲間意識を伴う濃い人間関係、共にイベントを作り上げるわくわくした体験、普段の生活の責任や役割から離れた場所で思いっきりはしゃぎ回る一日。現代の都会生活の中で失われたそうした体験がうつ病からの回復に関係がありそうです。 

・プラス思考という言葉を聞いたことがあるかと思います。うつ病治療だけではなくビジネス書などにも良く出てくる言葉です。起きた出来事に対して「これは良いことが起きたのだ」と思うこと。あるいは物事の良い面に焦点を当てて喜びや感謝の気持ちを持つこと、と言った意味で使われています。
 うつ病の人はマイナス思考に陥っている状態です。起きた出来事に対して過度に「これは良くないことが起きたのだ」と思い込み、あるいは物事のマイナス面に焦点を当ててしまいがちです。ですから自分が何かとマイナス思考に陥っていると自覚すること、これからはプラス思考を心掛けることは大変良いことです。
 しかし思考のパターンというものは大変根強いものですから、そう簡単に変えられないかもしれません。その場合はまずは口から出す言葉から変える、という方法があります。必ずしもそう思っているわけではなくても良いのです。雨が降っても「嫌な天気だね」と言うのと「良いお湿りだ。花も喜んでいるね」と言うのとでは明らかに気分も違ってきます。

 ・そんな気力がないという人には「アファーメーション」をご紹介します。肯定的で元気になる言葉を唱えることです。私の治療院では主に中村天風という先生の言葉をいくつか紙に書いたものを用意していて、望む方に別室で一緒に唱えて差し上げることがあります。  
 コツは姿勢を正して朗々とした声で唱えることです。朗々とした声で唱えることで言葉の持つ良い波動が体の中を響き渡る様に感じられます。
 50代の女性で人間関係のトラブルをきっかけにうつ病になり食欲も無くてやせ細っていた方が鍼灸治療の後このアファーメーションを体験したところ、唱えている途中で涙を流しました。治療後食欲が出て三日で3キロも体重を戻したと喜んで報告して頂いたことがあります。肯定的で暖かい言葉は人を元気づけるものです。私達は口から食べる物で体を養っていますが、目で読み、口で唱える言葉で心を養っていることを実感することが大事です。30秒ほどで終わりますので時間もかかりません。興味のある方は是非試してみると良いでしょう。

以下に中村天風氏の言葉集にリンクを張りますが、私は特定の思想や宗教を勧めるようなことは一切ありませんので、誤解の無いようにお願い致します。治療室では「自分が元気づけられる言葉を自由に探して書き出し、朗々と唱えてみたら良いですよ」とお話ししています。

http://earth-words.org/archives/3243