鍼灸聚英にみる心の病症と配穴03:精神の異常

-平成24年8月 漢方鍼医会夏季学術研修会における発表より-

このような、マラリアの熱病やそれ以外のあらゆる熱病に「心、心包」は広く
使われていたということが分かります。これらのことから、古来の械灸が「心、
心包」に求めた主な作用は清熱作用です。あるいは、熱を下に降ろす作用と言っ
て良いかと思います。

②心は君主の官であり精神の異常、神経症状に異常が出ます。例えば、発狂、健
忘、急に声が出なくなりしゃべられない、真正の痴呆、癲癇、急に気が狂う、
狂って走る、発狂したら高いところへ登り歌を歌い、服を脱ぎ棄てて走る、など
など色々な精神症状があります。心は神を主るとありますから、心が乱れること

は精神が乱れることです。『肘後歌』では、「幽霊が見えているかのように意味不
明なことを喋って、寝汗をかけば、間使へ鍼してスッキリする」とあります。ま
た『百症賦』では「間使は、声が出ずに口ごもり、言葉が停止して遅いものを治
す。」とあります。このような、重篤な精神の異常に「心、心包」 が使われてい
たということです。
③心が発病すると憂鬱となります。心の感情は喜びです。喜びは心を傷つけ、恐れ
は喜びに勝ちます。とにかく、喜びや恐れや悲しみといった感情の不正常と
「心、心包」は結び付けられています。例えば、うつ病、躁うつ、パニック障害
のような発作的なものもあります。心は、虚しても実しても異常が精神に出ま
す。感情のケアは代替医学へのニーズが高いので、古来の誠灸からそのような要
請に応えてきたということは、現代の誠灸にとっても心強いものだと感じます。
④心というのは、当然、心臓のことですから、現代医学的にみると循環器のことで
す。ですから、心痛や心臓がドキドキするといった一連の心臓の症状は、昔から
「心、心包」と結び付けられていたことが分かります。

⑤呼吸器の異常と「心、心包」の関係が、調べてみて一番意外でした。心経の流中
の項では、「心系には二つある。一つは肺に上がって通じ、肺の両葉聞に入る心
系。もう一つは、肺葉から下がり、後ろへ屈曲し、背骨の裏の細絡と繋がって、
脊髄を貫き、腎と通じる心系。」とあります。これは、浅野先生の解説によると
肺動脈であると説明されています。解剖学でも、非常に太い血管が肺と心臓に繋
がっています。また、もう少し細い肺静脈も繋がっています。古代の人たちも解
剖をして、そのような心と肺が一体になっていることを調べたわけです。ですか
ら、肺が熱を持てば心に響いていくし、心に熱を持っと肺に伝わってくるという
わけです。したがって、肺経のツボといっしょに「心、心包」のツボも使われて
いるわけです。

鍼灸聚英にみる心の病症と配穴02:マラリア

-平成24年8月 漢方鍼医会夏季学術研修会における発表より-

こうした先生方が昭和初期に鍼灸処方の基礎を学ぶべく、「まず『鍼灸
緊英』を読むべし」となったのはそういうわけで、ごく自然な選択であったことと思
います。この本を読むことで五臓の生理病理は無論のこと、歴代の鍼灸医がどのよう
な病気を扱い、どのような処方を行ってきたかが理解できるようになっています。し
かし、先に述べたように彼らが漢方医によって既に「心に虚なし」の理論を教えられ
ていたとすれば、心の病に関する記述に対してはそのような先入観があって、その真
意を十分に汲み取らなかった可能性もあります。そのようなわけで、今本会が心の病
の治療を再構築するに当たり、先ず会員一同にて先入観を捨てた目でこの『鍼灸聚英』の心に関する記述を改めて読んでみる事は、今後の研究のために価値あることだと思います。

 

ー以下鍼灸聚英よりの抜き書き朗読の後ー

 

①心は熱と結び付けられています。それは、各種の熱病のことです。特に、「瘧」
という病気の名前が何度も出てきます。「瘧」というのは、日本語では「おこり」
といいます。正確には、マラリアのことだと言われています。あるいは、マラリ
ア様の伝染性の熱病を指します。伝染性の熱病に対する処方は、古くから漢方医
学の重要な部分であったと思います。その熱病に対して「心、心包」の配穴が重
要な意味を持っていたことが分かります。例えば、『通玄指要賦』では、「マラリ
アで悪寒発熱したら、間使に頼って救護する。期門は、胸が血で膨らむものを治
せる。労宮は、嘔吐して心寵部の痛むものを治す。疑うなかれ。さらに心胸病に
は、手掌後ろの大陵を求める。」この中でも4つのうち3つが、「心、心包」のツ
ボで処置されています。

マラリアというと野口英世の話があるように、アフリカにあるということは
知っていました。また、戦時中に沖縄の離れ小島で流行ったことも知っていまし
たが、中国でもあったのか疑問でした。ましてや、日本でもあったのかと疑問に
思いました。しかし、日本でも流行した時期があったようです。現在、放送され
ている大河ドラマの平清盛も最後は「瘧」で死にます。また、後白河法皇も
「瘧」で死にます。マラリアは、最近まで日本の本土でも普通に見られた病気で
した。マラリアが最後に発生したのは1964年です。この流行が、本土における最後の発見と言われて
います。ですから、遠い国の病気ではなくて、マラリア原虫という病原菌は、日
本の本土にも普通にいたということです。

鍼灸聚英にみる心の病症と配穴01:序論

ー平成24年8月 漢方鍼医会夏季学術研修会における発表よりー

昨年「心虚証の研究」を発表以来、個人的にも多くの反響を頂きました。そのほと
んどが肯定的な反応であった事に意を強くしています。
今回はさらに心の病証と配穴に関するスタンダードな資料を皆で読むことで、漢方
はり治療における心の治療のさらなる深化に貢献したいと思っています。
まずテキスト編纂事業の課程でこの問題に関する認識の変化がありました。先の発
表では経絡治療草創期の先生方が「心に虚なし」と唱えたきっかけは彼ら自身が原
典、特に『霊枢』邪客編の文章を読み解くことで得た結論であろう、としました。

しかし、どうやらそうではなく、そもそも日本漢方のある流派の中に元々「心に虚なし」という学説があり、彼らが漢方医学をそうした漢方医から学んだ際に教えられたことだったのではないか、と思うようになりました。といいますのはテキスト執筆のために、素因に関する資料を当たっているときに気づいたのですが、日本漢方系統の先生の書かれている素因論の中には、五臓の中で心の体質のみを省いて書いている場合があるのです。つまり肺、脾、肝、腎の4つの体質に分類して終わっているのです。
五臓の中で心のみを弁証と治療の対象から外す、という思想は薬方の方では意外と長い歴史を持つものなのかもしれません。
伝え聞くところによると、当時の中心人物の一人、竹山晋一郎氏が病を得たときに漢方医の森道伯氏の治療によって治癒したことをきっかけとして、同氏に漢方理論を師事した、といわれているようですので、もしかするとそのあたりがこの説の出所であるかもしれません。
ところで『鍼灸緊英』です。この本は1529年に高武によって書かれた誠灸の専門書です。中国ではこの時期相次いでそれまでの誠灸の書をまとめた同類の著作の発表が続きました。もっとも有名なのは『鍼灸大成』(1 601) であり、中国ではこの書がこの時代の書籍の集大成とされています。しかし、日本にあってはむしろ『鍼灸緊英』の方が重視されてきた歴史があり、江戸時代においては鍼灸医必読の書として扱いを受けていたようです。

数年前、私はある書籍にて岡田明三氏が「私の父達は経絡治療の創設期に『鍼灸緊英』を読んでその配穴を学んだりと語っているのを読みました。岡田先生の父上である岡田明祐氏は弥生会にも属していた、正に経絡治療草創期のメンバーであると言える方です。

心の治療の実際・18「心の治療雑感 :相火論から見た心の治療」

(4) 相火論から見た心の治療
前会長の福島先生の時代に「相火論、心包三焦論こそが東洋医学の真髄であ
る」というお話をしばしば拝聴いたしました。中国の中世において行われたとい
う相火論の論争、存在は耳にしていましたが、その詳細に関しては定かではあり
ませんでした。いろいろ調べてみますと、この相火論こそが心の治療の説明の基
礎になるものであると感じています。(あまりまとまった資料というものがなく、
いろいろな本に断片的に書いてある相火論をまとめてみると概ね以下の図の様に
なるようです。本当にいろいろな議論がある様で、これと定まったものはないよ
うです。ですからこの図も絶対に正しいという様のものではありません。まずは
相火の循環に絞って簡単に書いたものです。)
天から心火が降りてきて人の命が始まります。心火が相火となって下焦に下
り、腎陽となります。腎陽が下焦からユラユラと立ち上がり五臓六蹄を暖めなが
ら上焦に至ります。上焦に熱が溜まりすぎない様に腎水は三焦を通って常に水液
の交通を主っています。そして、心、心包の経絡は勝脱経等の力も借りながら、
上焦に立ち上がってきた陽気を下焦に押し下げることで上焦をさわやかにすると
共に、押し下げられた陽気はまた腎の陽気として再利用されます。この体内にお
ける陽気の循環を促すのが心の治療と捉えています。
もちろん肺からもたらされる清気と牌胃からもたらされる水穀の精微も日々
我々に新たな陽気を与えてくれています。体の中に入った陽気の多くは排世や体
表からの発散によって体外に去っていくわけですが、いろいろ書き込むとわかり
にくくなるのでそれらも省きました。
中国の歴代の医家にはこうした相火論に関する色々な話が伝わっているようで
す。テキストにも書きましたが、臓器の名前には皆肉月がついている。心だけそ
れがないのは他の臓器が皆母から与えられたものであるのに対して心だけは天か
ら与えられたものだからである。古人はその由来を知るが故に天地の陽気が最も
盛んなる夏至の日の空を見上げ、細い三日月と三つの小さい星が心の字を形取っ
ているのを見つけ、心と名付けた。
心臓は胎児の時にもいち早く発生し鼓動を開始する。肺による呼吸も脾胃による飲食もない胎内において既に激しく鼓動し続け生命を支えている。この事実を持って心だけは天から与えられた特別な臓器としての地位が与えられたのかも知れません。
天が君火を降ろす事は、人が関与できません。腎陽が臓器を温めながら登って
来ることは熱の自然な運動であって衰えることはありません。腎陰を励まして三
焦を通路することは既に本会では理解され広く行われている治療です。ただ、
心、心包の経絡を用いて積極的に上焦の熱を下焦に押し戻し、もってこの天然の
陽気の循環を助けることだけが理解が不十分であり、治療に応用されることが少
なかったと、そういう理解をしています。

心の治療の実際・17「心の治療雑感 :心の瀉法が肝熱に対しても有効であるか」

5 .心の治療雑感
(1) 心の瀉法が肝熱に対しても有効であるか
私は当初は心の治療は心熱を適切に処理する治療、と考えていましたが、徐々
に肝熱の処置にも使えるのではないかとの思いが強くなってきました。
先ほどの血熱症と解釈したアトピーの症状なども肝熱に対して心の鴻法が有効
で、あったケースと言う見方をすることもできます。
そもそも『難経J六十九難の原則から言っても「実する者はその子を潟す」で
すから肝木の実に対して心火の鴻法は効果を期待できることになります。
また『難経j 七十五難の冒頭にある「東方実し、西方虚せば、南方を窯し、北
方を補う」も言葉通りに解釈すれば「肺虚肝実すれば心を潟して腎を補うベし」
となります。肝実に対して心の潟法を行うことは古来から誠灸治療で使われてい
た形跡は充分にありそうです。
(2) 季節性
心実証は季節性の強い証だと感じています。夏に多く、冬に少なくなります。
春先2月ぐらいからアレノレギーが増えるに従って心心包の治療が増えていきま
す。
「秋に乗ずれば則ち肺先ず邪を受け、春に乗ずれば則ち肝先ずこれを受け、夏
に乗ずれば則ち心先ずこれを受け、至陰に乗ずれば則ち牌先ずこれを受け、冬に
乗ずれば則ち腎先ずこれを受く。J (r 素問』咳論)
季節性と言えば梅雨時や秋の長雨の時の牌虚証、春先の肝虚症が思い浮かびま
すが、実は心実もかなり季節性があります。更年期のホットフラッシュの強い方
で「夏場は熱くて仕方がないが、秋が来て涼しくなるとそれだけで楽になってい
く。冬になるとほとんど忘れている。」という人がいます。熱証というものは日
本の様な四季のある国で、は季節に沿って盛衰を繰り返しているもののようです。
最初の腎虚と心実を繰り返す人の場合は夏期を中心に心を主証とし、冬期を中心
に腎虚へ移行するという人がいます。
(3) 陰虚との関係
心実証の多くは病理の基礎として肝腎の陰虚を持っている場合が多いもので
す。陰虚がある故に心熱が高ぶりやすいわけです。心熱を処理することはしばし
ば臨床的に高い効果を生みますが、こうした漢方理論の因果関係を見た時に、心熱の処理は標治的な位置にあることがわかります。それ故に心熱の処理だけをい
つまでも繰り返していては患者を治癒に導くことは難しいと考えています。陰を
地道に補う事で体を必要な陰液で潤し、もって心熱が高ぶらないような環境を
作って行くことが真に本治の名に値する事であろうと思います。ほとんどの患者
はある時期心の治療を主証として主訴の改善を見たならば、その後には肝腎、あ
るいは牌の陰を補う治療へと移行していくようです。
そのタイミングは脈診、腹診を注意深く行うことで的確に捉えることができる
と考えています。

心の治療の実際・16「うつ病治験」

.3/30 <第12診)
ここまでの総括。脈状はやや浮き、太くなり柔らかさは出てきたが、やはり沈
細の範囲内であると思う。また最初はやや遅脈で、あったのが平かやや数に感じる
ときもある。腹証は、自汗は半分ほどになり少し暖かさが出てきた。本人の弁で
は睡眠が改善して睡眠薬の使用が少なくなり、肩首の張りが楽になってきた。最
初の数回でうつ的な気分は改善したものの、その後はさらに一段の改善は感じら
れない。また体幹部のアトピーがきれいになった事は良いが、顔だけ湿疹が引い
ていかない。
(考察)
この患者は幼少時からのアトピー性皮膚炎との闘病の中で薬剤の多用により肝の陰
陽の虚損があり、それが彼女の素因として大きな影響を与えているものと思われま
す。月干の疏世の不足が牌の陽虚を引き起こしており、牌胃の運化作用の低下により体
が力なく細く、手足が冷えています。牌、月干の虚が血虚を引き起こし、長期にわたる
月経不順や睡眠障害を引き起こしています。肝気の疏世障害により情志が伸びやかさ
を失っており、さらに牌の障害により思慮過度となって気欝となり欝病を発症する基
礎的な条件を形作っていったようです。さらに7年前の環境の変化によるストレスが
心陽の虚損を引き起こして状況が悪化しています。呼吸の浅さ、声の細さ、胸のふさ
がり、神明の暗い感じは心陽虚による宗気不足から来ると思われます。
心虚陽虚証とみて、さらに六十九難を適応して心肝と補う治療を選択しました。心
の陽気が補われたことで宗気が回り出し、胸のふさがりや肩首の緊張が緩解し、睡眠
の改善にもつながったようです。また同時に肝を補ったことで血虚の状態も改善し体
幹部のアトピーも改善していきました。陽経は腸脱経を使う事も多いのですが、脈状
の改善が確認できれば三焦経を用いることがあります。跨脱経は心包経の陽気を下焦
に導く経脈であり三焦経は心包の陽気を直接四肢に巡らせる働きがあるようです。
(この患者は手足の冷えが顕著でしたので・.)
第7診以降は栄火穴を用いました。心陽虚証に栄火穴が適応する場合があると感じ
ます。
第10診の後1年ぶりの月経があった事に関しては証を牌虚陽虚証に変えた事も良
かったとは思いますが、それまでの10回の治療で肝の陽気が充分に補充されていたこ
とも大きかっただろうと思っています。
この方の場合はまだまだ欝的精神状態や体のだるさが、本人が希望するほどには改
善していないのは長期にわたる慢性病であること、毎日仕事をしている事、薬物をや
め切れていないこと等が関係しているかと思います。今後は季節も次第に暖かくなる
こと、顔面部のアトピーの改善が遅れていること、脈が次第に数になりつつある事な
どから考えて、熱に対処する治療へ移行していく可能性があると考えています。
こうした長期にわたる慢性病のプロセスの中では大抵の場合はまず肝腎牌の虚損が
あり、その後に心肺の虚損が加わることが多いかと思います。

後で述べる相火の理論から言えば五臓の陽気の真の源は相火である心包にあり、も
しも心陽虚の兆候があればまず心陽を補うことによって牌肝腎の陽気を効果的に補う
事ができる局面があると考えています。

心の治療の実際・15「心虚陽虚証」

(問診)
7年前田舎から出てきて専門学校へ入学。その際の環境の変化について行けずうっ
病を発症。気持ちが塞ぎ、欝々として外出が困難。眠りも浅く途中覚醒があり、熟睡
感がない。抗うつ剤を常用しており、時々睡眠薬も服用。胸がふさがる感じがあり、
首肩の張りがあると訴えるが触診してもたいした緊張は感じない。疲れやすく、便秘
がち。
生来のアトピー性皮膚炎があり体幹部に広く軽い炎症が広がっているが本人によれ
ば「今はアトピーは調子の良い状態で気にはならない。」とのこと。
月経は不順気味であったが、ここ一年生理が無くその原因は不明。
(脈証)
沈細にしてやや固い(薬物の影響か弱とは言い切れない)。左手寸口虚、時に結代
あり。
(腹証)
表面ざらつき冷たい。所々アトピーの湿疹あり。心寵部は力なく、うっすらと汗を
かいている。
(治療)
心虚陽虚証と見て心包経命土穴大陵に衛気の手法、脈診すると脈に太さが出てやや
浮いてくる、不十分と見てさらに肝経命土穴太衝を探ると脈に柔らかさが出てくる。
そのまま同穴に衛気の手法。さらに陽気を補うため三焦経陽池穴に衛気の手法。不十
分ながらもいっそう脈に太さが出て来るのを確認しました。
手三里、三陰交に知熱灸。
(経過)
・1/12 <第2診)
前回後はいつになく夜眠れ、肩首の張りも楽になったとのこと。脈診してみて
も前回同様の脈状に感じて同様の配穴にて治療。
以後2/8の第6診まで同様の治療。
睡眠は良く取れる様になり、うつ的な気分や胸のふさがりも緩解し肩首の張り
も楽になり、体幹部のアトピーが薄れてきた、と評価する一方で体がだるいと訴
える。睡眠薬を減らしたこともあり、脈状は以前より柔らかくはなってきたが、
沈細の脈状は基本的にある、と思われる。
・2/16 <第7診〉
もう一度穴を取り直してみると心包経栄火穴労宮を触ると思ったよりも脈が浮
きふくらむ様に感じるので、思い切ってこの労宮穴のみで治療してみる。さらに
陽気を挙げるために百会穴へ留置誠。以後3回同様の治療。
. 3/1 6 <第10診〉
脈状は徐々に幅が出てきており結代も少なくなる等良い変化を術者は感じるも
のの本人は体がだるく、疲れやすいと訴える。さらに食欲もさほどではない旨の
訴えがあり牌経を探ってみると脈状の良い変化があり、労宮穴に続いて牌経栄火
穴大都に衛気の手法。
.3/23 <第11診〉
前回治療後生理が来た、と報告があった。1年以上ぶりだったが結構きちんと
した月経であったと珍しく表情も生き生きとしていた。前回同様の治療。

心の治療の実際・14「感情障害 頭部・顔面への施術」

【備考】
上記の患者さんは顔がこるかと聞かれでもピントは来ないそうですが、他に何人か聞いてみました。
.74才女性
C肝炎、高血圧、不眠、不安感強く汗多く、動倖、喉元の詰まり感(さらなる
病気への不安、旦那の浮気): I顔がこわばる」→顔面施術→顔が柔らかくなり安
心する。又やってもらいたい。
.42才女性
めまい、動停、不眠、「顔がこったりしない」→顔面施術→顔が温かくなって
良い気持ち。又やってもらいたい。
.60才女性
台湾人、うつ病、不眠(6年親族とのいさかい、愛犬の死・・)
「ワ夕、ンそんなこと言われたこと無いよ。でもワタシそれわかるよ。ワタシ顔が
堅いよ・・・」といってシクシク泣き出す。→顔面施術→表情が軟らかくなり、
暖かくなる。にっこり笑い「ワタシうれしいよ・・」
.51 才男性
うつ病10年、出勤うつ、休職中→顔がこわばる、人からも何度も表情が硬い、
といわれている→顔面施術→表情が軟らかくなり、暖かくなる。「何だか安心す
る」

経穴は交会穴を中心に選ばれています。
晴明(手足の太陽、足陽明、陰晴脈、陽踊脈の交会穴)
横竹(晴明の代用)四白(明日去風)頭維(足少陽、陽維脈)迎香(手足陽明)地倉
(手足陽明、任脈、陽踊脈)承柴(任脈、手足陽明、督脈、任脈、)廉泉(陰維脈、
任脈)腫中(手厭陰の墓穴、足太陰、手太陽、手少陽、任脈)

治療後気持ちがよい、体が温まる、安心する、うれしいなどの反応もあり、可能性
を感じています。本治法をした後、顔面から頭部の施術をしながら患者さんのお話を
聞くような感じで応用することがあります。

5、心虚陽虚証
テキストにはさらにペットが死んだショックからなかなか立ち上がれないで悲しみ
を引きずってうつ病になってしまった女性の症例が載っています。実際、心陽虚証の
多くは精神的なストレスを抱えた結果心陽が冷えて病証を発する例が多い様に感じて
います。
「心虚陽虚とは生来の体質虚弱、老齢や長期間にわたる慢性病といった土台に加え、憂愁思慮等の内傷が加わって心の精気が虚損し、冷えを伴った心気の機能低下の症状
が出現したものです。心気が不足して胸中の宗気の推動機能が低下するために呼吸が
浅く、胸問、息切れ、不整脈があり、時に活動時に悪化します。また神志を主る働き
が盛んではないため、思考力、判断力の低下、悲しみやすい、浅眠等も出現しま
す。」『新版漢方誠医基礎講座』

 

【症例5】
患者:30代女性OL
主訴:うつ病
(望診)
体が細く、力なく、手足が冷えている。呼吸が浅く声も小さく時によく聞きとれな
い。無表情でぽつぽつと要領を得ない話をする。

心の治療の実際・13「パニック障害考察」

パニック障害を起こす人は素因として色々な問題を持っているものです。この女性
の場合は元来の牌虚の問題があるので、中焦に水湿がたまりやすくてお腹が出ている。
またその為心配性で考え出すと「こうだろうか、ああだろうか」と堂々巡りしてしま
うところがある様に思われます。急’性のパニックの症状が落ち着いたら、脾腎の陽気
の改善を目標にして治療を行うことになるのではないか、と考えています。
心虚陽虚証でのパニック障害の治療例となりました。動惇、胸苦しさ、胸痛などは
心虚陽虚でも生じますので、問診だけで虚実を判別するのは容易ではなく、やはり脈
証、腹証を見て証を正確に見極めなければいけないと感じました
実はこの方の前にも何人かのパニック障害の症例がありました。これぞ典型的な心
実証というような脈状の方でしたが、脈状の改善ほどには鮮やかな緩解を見ることが
できず、こうした心身症の治療の難しさを痛感しています。
こうした症状に対しては通り一遍の弁証だけではなく、患者と術者のコミュニケー
ションやより実際的な治療上の工夫が必要ではないかと感じている次第です。
パニック障害の中医学の治験を読むと疾飲との関連を指摘している例が多数有りま
す。その最たる者は「治療後大量に喀痰してそれ以来病状が段違いに軽くなり以後快
方に向かった」というものです。そもそも中医学には「怪病多痰」なる言葉があり、
頑疾や難病奇病の多くは痰飲が関係していることが多いという観察があります。
「一切の怪症は皆痰の実盛である」(寿世保元.1)
「痰火が異証を生じる所以である」(医学入門.1)
「痰がなければ眩は起こらない、痰は火によって起こる。(朱丹渓)
つまり、この先生に言わせればパニック障害も又怪病である、と言うことのようです。
心身症で痰がどう悪さをするかというと、胸部にたまって胸苦しさ、咽喉部を塞い
で喉の詰まり感をだし、督脈を塞いで陽気が頭に昇れない等と弁証をしてみせるわけです。
必ずしもここまで極端でなくとも「中医臨床」ではほとんどの先生が精神疾患に関
しては湿邪の影響に言及しています。「元来牌腎の虚があり痰湿を持ちやすい体質で
あり、そのため思慮過度となりこうした病気を発症・・・」とつなげてみたりしています。
痰湿は肺気の循環が悪くても、肝の疏泄が悪くても、腎の陰陽の気、三焦、膀胱の流れが悪くても起きますので長期的にはそうした五臓全体へのバランスの取れたケアーが欠かせないと思います。
この患者さんに痰は出ますかと問うと「調子が悪くなってからは痰が多くなってい
ます」と答える。吐き出す痰と言うよりもねっとりして喉に落ちていく、という言い
方をしていました。そして、ここ数週間症状の緩解と共に痰は減っているとのことで
した。
さらに「中医臨床」ではパニックであれうつ病であれ「顔がこりませんか」と聞い
てみると良いという話があります。そうすると「先生よく分かりますね」と驚かれる
という。つまり顔面や頭部にも小さな水滞ができて陽気の循環を妨げていてそれが気
欝の悪化要因ともなっているようです。そうした患者さんには顔面や頭部の経穴に施
術をすると良い結果があるようです。

心の治療の実際・12「パニック障害治験2」

(経過)
・2/11 (第2診〉
術後、半日ほど気分が良く安心感が広がり、今後に期待を持ったとのこと。し
かし、睡眠は変化無く、動惇も苦しい。それを何とかならないだろうかと訴え
る。
改めて脈を見直すと左手寸口の脈が浮大にして虚。心虚証とみて右心包経栄穴
労宮と腎経栄穴然谷に衛気の手法。治療後寸口の脈も整った模様。
.2/14 (第3診〉
前回後今日まで気分が良く安心感がある状態が続いている、とのこと。
一晩3回起きていた途中覚醒も一回になり、熟睡感が出てきた。しかし一日何
回かドン、とくるような動俸は未だ変化はないとのこと。脈は少し幅が出てきた
様だが、遅数はむしろ遅に近く、力ない虚脈に感じる。火経の剛柔である跨脱経
の穴を触診し、最も反応の良かった委陽穴を用いることとする。
労宮、然谷に加えて右腸脱経合穴委陽に衛気の手法。左肩首のはりがあるとの
ことで右側臥位にてナソ治療。
.2/18 (第4診〉
前回後ほぼ二日間動俸が出なかったとのこと。大変喜んで報告あり。その後、
動俸がまた復活しているものの頻度は以前ほどではない、とのこと。今回も前回
同様の治療。
.2/21 (第5診〉
動惇が少なくなっている0
・2/28 (第6診〉
先日苦手の車の運転をしたあとから、不安感が出てきた。動俸は順調に少なく
なっている。不安感によく対処できる補腎を優先して然谷、労宮の順番にする0
・3/8 (第7診〉
前回後不安感が消えてスッキリしたとのこと。同様の治療0
・3/15 (第8診〉
経過良好。
(考察)
この患者は非常にはっきりした急性のパニック障害でした。なんでも親に長年の心
臓病の持病があり、1月に胸痛がした際に「自分も親のように心臓病なのではない
か。あのように長く苦しむ様になるのではないか」と恐れているうちに発症したそ
うです。
第1診では腎虚証としました。症状が激しい割りに、脈証、腹証に実の様子が感じ
られず、池田先生の本にあるような腎の補いのみで緩解していくケースではないかと
考えました。
治療後安心感が出て落ち着いたのは腎の引き締める力が回復し、丹田の気が回復し始めた兆候かと思います。しかし、それだけでは症状の改善が十分でなかったので積
極的に心の治療をするべきと考えて、第2診では心虚陽虚証で治療しました。心血が
回り始めて神明が明るくなり、睡眠が安定し始めました。それでも動俸の改善がない
との訴えで、第3診では火経の剛柔である腸脱経の治療を加えました。腸脱経は心包
と腎の聞の陽気の循環を支える主要なノレートです。陰経の治療のみで心腎の陽気が充
分に回復しない時はこのように陽経を用います。