腰痛

腰痛は鍼灸治療が大変得意にしている病症といえます。腰痛には大きく分けて急性腰痛と慢性腰痛があります。

 ○急性腰痛(ギックリ腰)

・原因・・俗にギックリ腰とも言われています。不用意に重いものを持ったり体を捻った拍子に腰の筋肉を痛めてしまうものです。西洋では「魔女の一突き」とも言われ、重症であれば立って歩くとこが困難なほどの痛みを感じます。

 西洋医学の診断では最も多いのは「急性筋膜炎」で、腰部の筋肉を覆っている筋膜が筋肉との間に炎症を起こすものです。次がいわゆる椎間板の炎症です。まれに筋肉の断裂(いわゆる肉離れ)による場合もあります。断裂が起きるとすれば患部に大きな力が加わっていますので、良く問診をする必要が有ります。スポーツ選手で走りながら体を捻ったり、急に止まろうとしたり、ジャンプした際に筋断裂になる可能性があります。或いは庭を耕していてスコップ一杯の土を強引に持ち上げようとして筋断裂を起こした患者さんなどを診た経験があります。

 ・治療・・治療は先ず脈を整える「漢方鍼治療」を行います。脈を整えることで体の中の疲労物質が流れていき患部の緊張がとれて炎症が引いていきます。

腰の患部は基本的にそんなに施術はしません。急性の痛みでは患部への刺激は逆効果になることがありますので。

急性筋膜炎の場合は立位で軽く体操をしてもらうことがあります。足のツボに鍼をした上で腰を回してもらうのですが、みるみる痛みが抜けて腰がくるくる回るようになります。

ギックリ腰で鍼灸の治療をすると、「行った時は痛みで靴を脱ぐのも辛かったのに帰りは嘘のように楽になって帰る」といわれているのは大抵この「急性筋膜炎」のケースです。元々疲労で筋膜と筋肉の間の潤滑液が涸れていたのが原因で炎症が起きていたのが、治療で潤滑液の分泌が復活し、嘘のように腰がするすると回り出すのです。

これに椎間板の炎症が絡むと治りはやや悪くなりますが、それでも次の日には随分動くようになる方が多いようです。

 「筋断裂」の場合は動かなくてもズキズキと痛む「自発痛」がありますが、まずはこの自発痛の軽減が目安になります。俯せになって頂くと筋断裂を起こしている場所は他の場所に比べてうっすらと陥没しているものです。時に熱を持っている場合もあります。その患部の周囲に軽くお灸をすえて炎症の軽減を促すことができます。治療後は大抵ズキズキとした自発痛が軽くなっています。やはり筋繊維が断裂しているので動きが改善するのは時間が掛かります。数日から数週間でしょうか。断裂の大きさによっては数ヶ月かかる場合もあります。

 ・養生・・急性の炎症にとって良くないのは、飲酒、長風呂、痛い場所を揉みほぐすことです。急性腰痛(ギックリ腰)の場合もやはりこの3つに気をつけて下さい。痛みが治まるまでは飲酒、長風呂はせず痛い場所をむやみに押したり揉んだりしないことです。

又急性腰痛の原因は筋肉に対する過度の負担だけではなく、既に疲労が蓄積している場合が多いのですから、夜は早めに寝て余計な活動は控える様心掛けて下さい。

 

○慢性腰痛

・原因・・慢性腰痛で一番多いのは整形外科的原因による腰痛です。整形では主に各種の画像診断によって腰部の椎間板の突出や骨の変形を発見し、腰痛の原因として各種の診断を下しています。腰部椎間板の突出で神経を圧迫している「腰椎ヘルニア」、腰椎がずれることによって神経が圧迫される「腰椎すべり症」、背骨の変形や靱帯の肥厚で脊椎管が狭くなって起きる「脊椎狭窄症」。画像では不明でも下肢に現れる痛みとしびれを根拠とする「坐骨神経痛」もあります。
 以前は整形外科では湿布と痛み止めの投薬で様子を見て寛解しなければ手術をすることが多かったようですが、最近では腰部疾患に対する外科的手術の効果に対して否定的な研究結果が相次いで発表されたことを受けて、こうした疾患に対しても外科手術を用いない保存的療法が重視されるようになってきています。古来よりこうした疾患に対して定評のある鍼灸治療の価値は以前にもまして高くなっています。
 

 腰痛の原因は上記のような外科的要因によるものだけではありません。原因が内臓のトラブルである場合もあります。時に胃の悪い人は腰痛が起こりやすいものです。生来胃弱で太れない方、或いは受験や就職を機にストレスを受けると腰痛が発生する方などがおられます。画像診断をしても病変はなく、投薬をしても効果がない。そういう方は腰だけ治療しても治りません。先ずは胃の治療から或いは胃と腰を同時に治療するつもりでやると良く治ります。鍼灸医学の経絡の理論では胃と腰は一緒に悪くなり、一緒に良くなるとされていますから、こういうケースは鍼灸がとても良く効きます。婦人科が悪くて腰が悪い人もいます。生理の時に多くの女性が腰痛に苦しむのをみてもその関連はあきらかです。その場合も婦人科をターゲットにした方が解決への早道なのです。

またメンタルが悪くて腰痛になる方もいます。最近の研究では「整形外科的要因で腰が痛くなる人は腰痛患者全体の30パーセント。」という発表もありました。腰の骨や神経だけ診ていても意外と腰痛は治りません。人体を細かく細分化してパーツごとに診断する西洋医学の限界が病院での腰痛の治療に現れている、といえます。胃腸、婦人科、メンタルなど体を全体として整える鍼灸医学の優位性が腰痛の治療に良く表れています。

 

・治療・・治療はまず脈を整える「漢方鍼治療」を行います。脈を整えることで体の中の疲労物質が流れていき患部の緊張がとれて炎症が引いていきます。また胃腸虚弱や婦人科の炎症や冷えをターゲットにしたツボを用いることで、腰痛を起こす根本的な原因を改善していくことができます。腰にも適宜施術しますが、意外と大切なのは足のツボです。膝の後ろや足首周辺のツボは特に効果的です。「痛いのは腰なのにどうして足ばかり触っているのか?」と疑問を持つ方もいらっしゃるようですが、決して勘違いしているわけではありませんので、安心してお任せ下さい。

・養生・・慢性の腰痛の場合自分でできることはいろいろあるように思います。まず各種の腰痛体操があります。仰向きになって膝を立て呼吸に合わせてゆっくり左右に膝を傾けていく、という方法が一般的なやり方です。これも悪くない方法ですが、私のおすすめは「ドローイング」です。仰向けで膝を立てて息を吸いながらゆっくりとお腹を引っ込めていきます。両方の腸骨前の筋肉がきゅっと締まるぐらいまで力が入れば効果が出ます。これを110回ほど行います。うまくコツがつかめれば1週間ほどで大きな違いを感じることができます。

 腰痛対策の運動というと腹筋運動を勧める声があります。腰を痛めないようにと膝を立てた上で腹筋をすれば効果的だというのです。しかしこれは意外と難しく、効果が出る前に又腰を痛め直してしまう人が多いように思います。その点ドローイングは痛め直す危険のない安全な運動療法です。詳しいやり方は検索して研究してみて下さい!

 腰痛は足腰の冷えがきっかけとなる場合が多くあります。冷え性の方は足腰を暖めるよう心掛ける事が大切です。厚手の靴下を履き保温性のある下着を身につけ、汗をかいたときはこまめに着替える、といったことから心掛けてみることです。

 カイロを痛いところへ貼り付けている方がいます。それで痛みが緩和していればよいのですが、必ずしもそうはならないようです。カイロで長時間暖めるとどうしても汗をかいてしまいす。汗をかくとは冷えることですから結局患部を冷やすことになります。良かれと思ってむやみにカイロを貼っていると却って腰痛をこじらせている場合があるのです。カイロを貼ることが必ず悪いと決めてかかるべきでもありませんが、自分にとって良いかどうかはよく観察してみる必要がある、ということです。

 病院へ行くと消炎鎮痛剤が塗布されている湿布をもらえるので皆さん貼っています。知っておいたほうが良いのは消炎鎮痛剤というものは体を冷やす傾向があると言うことです。そもそも炎症というものは熱を持って腫れている、という前提があるからです。しかし腰痛患者の多くは腰が腫れて熱を持っているわけではありません。ですからカイロと同様にいつの間にか体を冷やし過ぎてしまっている場合がありますので、自分の体に良いかどうか、注意深く観察する必要があるようです。


                                                                2017/05/01