鍼灸聚英にみる心の病症と配穴01:序論

ー平成24年8月 漢方鍼医会夏季学術研修会における発表よりー

昨年「心虚証の研究」を発表以来、個人的にも多くの反響を頂きました。そのほと
んどが肯定的な反応であった事に意を強くしています。
今回はさらに心の病証と配穴に関するスタンダードな資料を皆で読むことで、漢方
はり治療における心の治療のさらなる深化に貢献したいと思っています。
まずテキスト編纂事業の課程でこの問題に関する認識の変化がありました。先の発
表では経絡治療草創期の先生方が「心に虚なし」と唱えたきっかけは彼ら自身が原
典、特に『霊枢』邪客編の文章を読み解くことで得た結論であろう、としました。

しかし、どうやらそうではなく、そもそも日本漢方のある流派の中に元々「心に虚なし」という学説があり、彼らが漢方医学をそうした漢方医から学んだ際に教えられたことだったのではないか、と思うようになりました。といいますのはテキスト執筆のために、素因に関する資料を当たっているときに気づいたのですが、日本漢方系統の先生の書かれている素因論の中には、五臓の中で心の体質のみを省いて書いている場合があるのです。つまり肺、脾、肝、腎の4つの体質に分類して終わっているのです。
五臓の中で心のみを弁証と治療の対象から外す、という思想は薬方の方では意外と長い歴史を持つものなのかもしれません。
伝え聞くところによると、当時の中心人物の一人、竹山晋一郎氏が病を得たときに漢方医の森道伯氏の治療によって治癒したことをきっかけとして、同氏に漢方理論を師事した、といわれているようですので、もしかするとそのあたりがこの説の出所であるかもしれません。
ところで『鍼灸緊英』です。この本は1529年に高武によって書かれた誠灸の専門書です。中国ではこの時期相次いでそれまでの誠灸の書をまとめた同類の著作の発表が続きました。もっとも有名なのは『鍼灸大成』(1 601) であり、中国ではこの書がこの時代の書籍の集大成とされています。しかし、日本にあってはむしろ『鍼灸緊英』の方が重視されてきた歴史があり、江戸時代においては鍼灸医必読の書として扱いを受けていたようです。

数年前、私はある書籍にて岡田明三氏が「私の父達は経絡治療の創設期に『鍼灸緊英』を読んでその配穴を学んだりと語っているのを読みました。岡田先生の父上である岡田明祐氏は弥生会にも属していた、正に経絡治療草創期のメンバーであると言える方です。