漢方鍼医会の脈診05

dsc_0728

ー医道の日本投稿 「漢方鍼医会の脈診」:平成28年9月号よりー

 

Ⅳ.脈診による治験例

日時:平成28年5月18日

患者:30才男性

主訴:アトピー性皮膚炎

経過:幼少期から重度のアトピー性皮膚炎があり、全身に炎症とかゆみがある。4年前が初診でその後の治療を通してかなりの改善を見た。当初は炎症は重度で体液がもれて治療着やシーツを濡らすこともしばしばであったが、今はそこまで悪化する事はなくなりかゆみもさほどではなくなった。時に悪化して来院する位である。

今回はゴールデンウイーク後から悪化し、顔が赤くほてり、手足に発赤した炎症が出現し、かゆみが高まってポリポリとかきながら来院した。

夜になるとかゆみが高まり、寝付きにくく、眠りが浅く疲れやすい。

 

四診:体は155センチぐらいでやや小柄。色は赤黒く長年の皮膚炎の後遺症と思われる。

話し方はやや早口で時に声が裏返り内面の強い緊張を伺わせる。しかし声はハキハキと若者らしく力があり、胃の気は健在で回復力はありと診る。

腹診では表面ざらつき有り若干の気虚。全体にタプタプして水気多く又下腹部の弱さは腎虚と診る。臍の周囲冷たく、胸部に強い熱感があるのは心熱有りと診る。

 

脈診:総按にて祖脈は浮、数、実 単按にては左手寸口散大。左手尺中も浮。浅く皮毛の部に指を浮かせて左手寸口表面の散脈を火邪の現れと診る。立夏を過ぎているので脈が浮いて力強いのは順であるようにも見えるがあまりに強く浮いているのは病脈即ち火邪の現れと診る。しかし全体的に脈は精気が感じられ胃の気は健在と診る。

 

診断:腎虚心実と診断。脈状が浮数であることを考慮し、腑病と診て陰臓ではなく小腸、三焦、膀胱経等の陽腑から触診する。

 

治療:単按にて脈を確保しつつもう片方の手で患者の経脈を軽擦。まずは小腸経、三焦経の原穴付近を軽擦して脈状の変化を比較。小腸経の方が脈状が緩やかになることを確認し、小腸経を選経。さらに穴を探り経火穴陽谷に触れた時最も左手尺中の散大の脈状の改善を診たことで同穴を選穴。本日が5月中旬で六気で言う二之気少陰君火の季節であることからも、季節に沿った選経、選穴となった。

陽谷穴に営気の手法を施し脈状を観察すると左手尺中の浮きが気になる。さらに脈診しつつ膀胱経を軽擦し、経火穴崑崙に触れた時にぐっと沈んでくる感じを得たので、同穴を取穴し営気の手法を施した。

 

標治法として背部兪穴心兪、腎兪、小腸兪、膀胱兪穴を中心に補鍼。さらに上半身の熱を下へ引くこと目的に下肢の膀胱経諸穴にも補鍼をした。

治療後祖脈は沈んで中位にまとまり数脈も解消した。左手尺中は適度な浮脈となり尺中も沈んで菽法の観点からも理想的な脈形に近づいた。

腹診では表面がつるりとして艶が出てタプタプした水も流れいくぶん引き締まった感じが出ている。臍周辺の冷えは解消されその分胸部との熱感の差は小さくなった。

本人に聞くと上半身全体の火照りが解消し、全身のかゆみがずいぶん治まって楽になったとの事で治療を終えた。