心虚証の研究・9「心虚陰虚証 病理考察」

病理考察:元々素因として心気が虚損しやすく、五志の安定が難しい。更に今回は家庭の問題から感情が乱れ、憂愁思慮の末、心気を大きく虚損し、心血の巡りが不足している。脳を滋養できないため、ふらつくようなめまいがある。更に心神を養えず神明が乱れるので、思考が集中せず、健忘、心痛をみる。心熱が高ぶるため、眠りが浅く途中覚醒も頻繁で、夢見が多い。夢の内容も多くが悲観的であり、疲れを誘う。頭重、肩こり、口渇、逆気、盗汗は陰虚証に共通した病証であるが心の病は汗に出る故で寝汗もことさら多いのです。
治療は、心血を回復させる事を目標に、心包経に営気の手法を加えます。心血の流れが回復すれば、脳を潤し、神明を安寧に導く事ができます。心の臓器自体も潤いが回復し陰虚からくる各種の熱症状を収めることができると期待できます。

本治法:選穴は栄火穴労宮、栄火は心包の自穴にして熱を冷ます力の強い穴です。更に剛柔関係から膀胱経の栄穴通谷、乃至火穴昆侖に衛気の手法を行います。膀胱の経気が補われることで心腎の交流が活発になり、上焦の熱が冷まされて行きます。また三焦経の穴を使うことで心包に滞る熱を速やかにその表である三焦経に導く場合もあります。

標治法:下焦の督脈上の虚へ営気の手法を行い、腎水を補うことで上焦の熱を下に引きます。また虚熱による肩背部の凝りに対しては鍼数は少なめに、素早い手技で熱を散らすように処置をします。下腿下三焦の通りに沿って補鍼をすることで、全身の津液の巡りを促し、各種の熱症状の緩和を補助します。

 

※他臓腑との関係考察
・心肺・・心と肺にはいくつかの共通点があります。共に上焦に位置し、心は血を巡らし肺は気を巡らす要として協調しながら働いています。心気が虚弱になれば血脈の運行に支障が生じて肺気の宣発・粛降作用に影響が表れ、肺気が虚弱になれば宗気が不足し血脈の運行する力が弱くなります。また肺熱と心熱は互いに影響し合うことがありますし、両者の症状は時に見分けにくいことがあります。特に病状がさほど進んでいない段階の陽虚証では疲れやすく、呼吸が浅く、自汗しやすく、悲しみに浸りやすい等両者の状態は似通った点が有ります。薬方では心肺気虚という証があり、気を補った上で陰液を補う処方が成されます。(生脈散【医学啓源:南宋】)中医の本では呼吸器疾患の過程や、熱中症の際に勘案する弁証とされています。鍼灸治療においては心肺両者を共に補うことは考えにくく、脈状腹象などからよく見分けて治療する必要があると思います。