心虚証の研究・8「心虚陰虚証」

(2)心虚陰虚証
①病理
心虚陰虚とは生来の心臓病を持つ場合の他に、心虚陽虚の土台の上にさらに心血の不足が進み、又は心そのものを滋養するべき血が虚損した結果熱を伴った心血の滋養低下の症状が出現したものです。血が心を十分に滋養できないため、動悸、胸痛がおこります。神を養えず神明が乱れて思考の低下、不眠、多夢はより重大なものになります。血虚により脳髄を濡養できないため、眩暈、健忘といった脳の症状も起きてきます。五心煩熱、潮熱、盗汗といった陰虚熱に共通の症状はもとより、より重大な局面では人事不省、妄言、発狂もあり得ます。また熱が舌に向かえば舌先は紅くなり、口舌に瘡を生じます。
陰虚証の熱もまた、ほとんどは内部から発生したものです。まれに外感熱病の過程で熱が心包に入り(熱入心包)心熱の症状を引き起こすことがありますが、それ以外は心自らの熱の過剰か多臓器からの熱の移動によるもので有るとされています。

脈診:左手寸口浮、大、散、熱証強ければ数。
腹診:心窩部心の見所堅く結ぼれ、胸から上熱有り、しばしば小腹の冷えと対比を成す。

②治療例

患者 55歳 男性
初診 平成21年6月
主訴 めまい、不眠
自営業の経営者、元来神経質で夜の眠りが浅い方だと言う。以前仕事上のことで経営危機があり、何日か眠れぬ夜を過ごしたあとにめまいを発症。当初はぐるぐる回るような激しいめまいがあり、当院にて治療、肝虚証にて疏泄を促し情志を伸びやかに導く数ヶ月の治療をし、好転し治療を中断した。今回は2年ぶりに来院。数ヶ月前から家庭内に問題が起こり苦悩するうちにめまいが再発した言う。今回は回転性というよりは、ふらつくようなめまい感であるという。さらによく眠れないと訴える。最初は3時間ほど眠るが、あとは1時間おきに目を覚ます。寝ているか起きているのかよく分からないがその間ひっきりなしに夢を見るので、今のは寝ていたのかと気づく様な感じで、朝起きても疲れがとれた気がしない。寝汗も多くまた喉が渇くので枕元に水を用意している。肩が凝り、頭部が重い。仕事でも細かい数字を追いかける集中力が無く、大事な用件を忘れて社員に指摘されてしまう、とこぼす。時にのぼせたように熱くなる事があり、また左胸部にズキンとした痛みが出現することがある。

脉診:全体脉状は、浮やや数。脉位では、左寸口大・散。
腹診:全体は軟弱で力なく、心窩部は堅く拒按あり。胸部に熱感強く、腹部の冷感との差が大きい。