心虚証の研究・6「心虚陽虚証」

3.心・心包の病証と治療

心には「血脈を主る」「神志を司る」等の生理作用があります。血液を推動して脈中に運行させ、身体各部を滋養することは正に心臓の生理作用を代表するものです。血脈を主る機能は心気の作用により行われていますので、心気が旺盛であれば血液は豊かに循環し、血中の栄養物質は各臓腑・組織器官に運ばれます。逆に心気が虚弱になれば血液の推動が弱まるために、各種の循環器障害の症状を引き起こす事になります。薬方の世界でも心の治療と弁証の多くが循環器病を対象としているのはこういった事情によるものです。
とはいえ、心の治療が心臓を中心とした循環器系の治療に限定されて用いられるという訳ではありません。心気の神志を司る機能とは、即ち精神を明晰で健全な状態に保つ働きのことです。難経四十九難に「憂愁思慮(ユウシュウシリョ)すれば心を傷る」、霊枢邪気臓腑病形論篇に「愁憂恐懼すれば則ち心を傷る。」とあるように、憂いや恐れで心労が募ると心気が弱まり、神志を正常に保つことができなくなります。その結果、精神抑鬱、心情不活発となり、不眠、多夢、健忘といった各種の神経症状の出現をみることになります。そういった意味で心気の虚が引き起こす病は意外なほどに裾野が広く、現代的なストレス病に対しても広く適応できる治療になる可能性があると言うことができます。

(1)心虚陽虚証
①病理
心虚陽虚とは生来の体質虚弱、老齢や長期間に亘る慢性病といった土台に加えて憂愁思慮等の内傷が加わって心の精気が虚損し、冷えを伴った心気の機能低下の症状が出現したものです。心気が不足して胸中の宗気の推動機能が低下するために呼吸が浅く、胸悶、息切れ、不整脈があり、時に活動時に悪化します。また神志を司る働きが盛んではないため思考力、判断力の低下、悲しみやすい、浅眠等も出現します。 心の病理で特徴的なのは外邪の影響によるものがほとんど無いことです。霊枢・邪客篇に「心なる者は、五蔵六府の大主なり、精神の舎《やど》る所なり。其の蔵堅固にして、邪容《…い》る能わざるなり。」とある通りです。その為病因に関しては素因と内因のみを考慮するのが一般的です。他の臓器からの病の伝変はあります。久病や病後の養生が良くないと多汗、嘔吐、下痢、出血などにより気血が損傷し、心陽が犯される事によるものです。

脉診:細弱、血脈が障害すれば細ショクとなり、時に結脈となります。左手寸口虚。
腹診:腹部全体がざらつき、冷感があり、自汗が見られます。心窩部心の見所は軟弱です。

2015年11月19日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : izumido