心虚証の研究・12「中医学との違い」

肺の弁証が事実上肺結核の病理過程をなぞった形で書かれているのと同様に、心の弁証は慢性の心臓病の過程をなぞった形で書きすすめられています。つまり西洋医学の観点から見ても矛盾のない形に書くことで、古典医学の発展と身の安全を同時に適えようとしたものであろうと思われます。中医学を参考とする際、こうした点に留意する必要があります。中医学の本を読むと、心の弁証は循環器の病気を治療するためのものか、という印象を受けるかもしれません。実際現在の中医学で心の弁証は主にそうした病に対して使われ、副次的にある種の心身症にも応用される程度である様に思われます。しかし原典を読めば気づくように古代の医家達は憂愁思慮をはじめとする感情の障害と心を積極的に結びつけて治療していた形跡があり、我々も循環器疾患以外にもそうしたストレス病、心身症に対する応用を積極的に研究していきたいものです。

(3)心は元来陽気の多い臓であるため、心病の多くは心熱によって引き起こされます。時に心熱により外感熱病の高熱の為の意識混濁や人事不省、或いは狭心症の激しい発作といった症状が引き起こされます。また痰が心竅を塞いでしまうことによっても痴呆、癲狂、突然昏倒といった病状が引き起こされ、さらに心熱と痰の両者が作用することで言語錯乱、精神異常、発狂状態といった激烈な症状が出現します。中医学の歴代の医家も苦寒薬、豁痰薬を主とした様々な方剤を作り、そうした病に対抗してきましたし、その説明に心の治療のかなりの部分が割かれる傾向があります。それらは大変興味深く、学習する価値のあるものではありますが、一方で現代の日本にあって古典医学に携わるものがそうした病気を診ることは比較的まれではないかとの認識から、今回はそうした激烈な状態に関する記述はほとんど行いませんでした。