心の治療の実際・6「肺と心熱の処理」

この患者は長年に亘る慢性の晴息のため陰陽の虚損が強くあり、それが顔面の血色
の悪さに現れていたと思います。季節の変わり目で症状が悪化しており、胸部に強く
熱が漂っている状態であることは、脈証、腹証に現れていました。心実証は心の経絡が持つ上焦の熱を下焦に押し下げる力を強めることで、胸中にわだかまる熱を処理し
呼吸器の症状を和らげるものと考えています。この患者さんの場合、心包経よりも心
経が適していたのは軽擦の結果ではありますが、脈の結代があったことと関係してい
るかもしれません。長期に及ぶ呼吸器疾患で心臓或いは脈に不正な状態が有れば心包
経よりも心経が適応する可能性が高くなるかもしれない、と考えています。
また、今回は剛柔の観点から小腸経を併せて用いました。呼吸器病の心の治療は心
経、小腸経と行くことで、心、肺の熱を効率よく取る可能性があるのではないかと考
えます。
本来であればこれほどの長期の呼吸疾患であれば必ず腎の虚損があるはずで、治療
の際のポイントになるはずですが、今回は4月の発表のサンプノレと言うことで心心包
経絡のみの使用でどこまで行けるかという気持ちで試みたところ、かなりの好成績で
意外でした。
何にしても3回しかできなかったのは残念なことでした。もしも長期の治療ができ
れば、徐々に浮数の脈状が収まり、今度は地道に肝腎を補い陰陽の気を回復させてい
く治療に移行することで本格的な回復を目指すことができたのではないかと考えてい
ます。

 

【備考】
・肺と心の熱の処理
肺と心は共に上焦にあり、熱がこもりやすいという特徴があります。そのた
め、それぞれが臓や経絡から熱を除去する働きを持っています。肺は皮毛を主り
膜理の開聞による発汗を通じて浅く広く余分な熱を体外へ排出します。
心は心と心包の経絡が上焦の熱を、経絡を通じて下焦に押し戻す、という形で
上焦の熱を冷まします。
心は少陰経同士の結びつきによって腹中で直接腎経とつながり、心包経は太陽
腸脱経を通じ、すなわち厭陰命から出た陽気が腸脱経を下り腎命から下焦に入っ
ていくともされているようです。こうして考えてみると肺の清熱は浅い部位の熱
をさまし、心のそれはより深い部位の熱に対処している、という感じがありま
す。いわば心、心包の経絡は心から発する膨大な熱を絶えず下焦に送り込む強力
なサーキュレーターの働きを持っているのです。
※肺臓と心臓の関係が密であることについて解剖図から思うこと。
心臓は肺臓の左下にあるというイメージでしたが実際はそうでもないようです。この
図では中央下の心臓を露出するために肺の心臓よりの部分をめくりあげて書いている

そうです。この図を見ると左の肺の奥に包まれるようにしてピッタリと密着
して位置している事がわかります。心の治療で心の熱が冷まされると同時に
肺の熱も冷まされると言うことも納得できる様に思います。
-熱の伝わりについて
本会でも肝虚陽虚証の女性は生理の時に下痢をする、という話があります。そ
れは元来、それでなくても陽気の足りない女性が生理で血を失うと子宮がますま
す冷えてしまう。子宮が冷えると接している大腸も冷えてしまう、だから下痢に
なるというわけです。臓器同士が密接に接触していると熱も冷えも移動しやすい
と言う様に理解できるのではないかと考えています。

 

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