心の治療の実際・5「オーストラリア人男性の治験」

【症例2】
患者:60代男性
主訴ー慢性の咳
(望診)
身長は170センチやや太り気味。顔は全体が白く血色無く、頬のみ赤く虚熱あり。
性格は至極穏やかそうで、声は低く、静かで理知的なしゃべり方が印象的。
(問診)
オーストラリア人。
日本人の奥さんの里帰りに伴って数週間前に来日。
奥さんの膝の痛みが当院の誠灸治療で軽快したのをみて、自分もみて欲しいと来院
した。
話しによると、子供の時以来の慢性哨息。特に季節の変わり固などに長い咳と疾が
でる。待合室にいる時からひっきりなしにゴホゴホと低い音が響いている。痰は無色。
肩背のコリ、浅い眠り。しばしば夜半に覚醒し、熟睡することが難しいという。
(脈診)
明らかな結代あり。本人にそのことを確認すると「私はそのこと(脈が結代するこ
と)を知らなかった。しかし例えそうであっても驚かない。なぜならば私は本当に長
いこと、時息を患っているのだから。」とのこと。しかし、心倖、胸苦しさなど心臓
の異常を示す症状は無い様子でした。
脈証は、浮、やや数。左手寸口特に大、結代あり
(腹証)
全体は軟弱で力なく、心寵部は堅く拒按あり。胸部に熱感強く、腹部の冷感との差
が大きい。
(治療)
心実証とみて左心経命土穴神門を触れると、浮脈が沈み、数が治まっていくのを感
じる。同穴に営気の手法。さらに小腸経命木穴後漢に触れると脈にツヤがでてくる。
同穴に衛気の手法。治療後、脈が緩やかなツヤので、た脈になったことを確認。
標治法は横臥位にて肩甲間部の硬結を緩め、腹臥位にて大椎に知熱灸。
(経過)
・9/24 (第2診〉
前回後、四日間咳が止まったとのこと。顔色は血色が戻りツヤがでた。ここ数
日は深く眠ることができて、リラックスできた、と喜んでいる。
前回同様の治療。
.9/28 (第3診〉
前回の治療後、夜一時咳がでた時もあったが、その後大量の小水(一晩3回)
があり、朝に黒い疾(今まで見たことがない)が排出され、以後咳は止まり、呼
吸も非常に楽である、とのこと。夜一時咳が出たのは天候の影響(この目、一晩
で気温が10度近く下がった。)も有るかもしれないが、第2診の選穴が適切では
なかった可能性もあると考え、選穴を見直し、左心経栄火穴少府、小腸栄水穴前
谷に刺鍼。
-第3診後
患者はオーストラリアへ帰国。以後の経過を知ることができず残念でした。

(考察)
昨年『誠灸緊英』を読んで以来、呼吸器疾患に心の治療を試したいと思っていまし
たが、この患者に始めてその適応の可能性を感じ、試してみたところ思った以上の好
結果に「さもあらん」との意を強くしました。