心の治療の実際・3「漢方薬との比較」

考察:この患者の場合は40代以降下肢の冷えと腰膝の痛み、高血圧、肩こりなど慢性の腎虚の症状を抱えていて、以前から腎虚証の治療を加えていました。今回は更年期の不調に加えて風邪で体調を崩したことをきっかけに腎虚陰虚の基礎の上に心熱が高ぶり、のぼせ、動悸、不眠、といった症状が出現しました。こうした場合、脈証、腹証をみて熱の表現が明らかであれば腎よりも先ず心心包の穴を軽擦してみます。心心包が適応であれば、浮数大といった熱の表現である脈状は速やかに改善します。さらに不足であれば腎経の穴をも軽擦し、適応するようであればこれを合わせて用います。火経が主証の場合剛柔は膀胱経になりますが、私は委陽穴を割と良く使います。火経の陽経は三焦経です。委陽穴は膀胱経の穴でありながら三焦経の下合穴であり心包経が主証の際には特に相性が良いように感じています。

 

最初にある先生から心包経を用いた治療をしてもらった時に「これは良いな」と
思ったのは、六味地黄丸のことが頭にあったからです。六味地黄丸は腎虚陰虚を治療
する代表的な方剤です。しかし中国では六味地黄丸を単独で用いるというよりも、そ
の症状に応じてそれにふさわしい熱を冷ます薬と病位に導く薬を加えて構成した方剤
を用いる事が多いのです。

知柏地黄丸:六味地黄丸+知母(ちも)、黄柏  知母:苦寒 清熱瀉火養陰

黄柏:苦寒 腎・膀胱 清熱燥湿

陰虚火旺、骨蒸潮熱

麦味地黄丸:六味地黄丸+五味子、麦門冬

五味子:酸、鹹 肺腎 収斂肺補腎

麦門冬:甘、微苦 微寒 心肺胃 滋陰潤肺 生津益胃

慢性咳、気管支炎、喘息

 

杞菊地黄丸:六味地黄丸+菊花、枸杞子

菊花:甘、苦 微寒 肺肝 疏散風熱 清肝明目

枸杞子:甘、平 肝腎 滋補肝腎 養血明目

ドライアイ、かすみ目

 

耳聾左慈丸:六味地黄丸+柴胡(五味子)、磁石

柴胡:苦 微寒 肝胆 和解少陽、疏肝解欝、治瘧

磁石:辛、寒 肝腎 潜陽(肝陽上亢による眩暈、耳鳴りを鎮める)

肝腎不足による耳鳴り、難聴、眩暈

 

こうした薬はどんな小さな漢方薬局でも必ず置いているといった類のもので、よく
使われている、よく飲まれている方剤のラインナップです。決して方剤はあるが滅多
に置いていないという様なものでは無いのです。
思うに、中医学の弁証と本会の治療は各臓の陰虚、陽虚、痕血、疾飲に対する対
処、発汗を促して外邪を去る、等多くの治療が共通しているのに、腎陰を補った上で
熱を冷ますという、そのあたりは我々の誠灸には無いのかなとも思います。少なくと
も中医における六味丸シリーズの様な大きな存在感がないなという疑問があったわけ
です。
本会の治療で熱を冷ますといえば、肝腎の陰を補うか、カゼの初期に陽経を濡法す
るか、そこで心を潟して腎を補うことがこんなに効果があるのか、やはり誠灸でも単
に陰を補うだけではなく積極的に熱を下げる治療があったのか、とつながったわけで
す。