心の治療の実際・16「うつ病治験」

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ここまでの総括。脈状はやや浮き、太くなり柔らかさは出てきたが、やはり沈
細の範囲内であると思う。また最初はやや遅脈で、あったのが平かやや数に感じる
ときもある。腹証は、自汗は半分ほどになり少し暖かさが出てきた。本人の弁で
は睡眠が改善して睡眠薬の使用が少なくなり、肩首の張りが楽になってきた。最
初の数回でうつ的な気分は改善したものの、その後はさらに一段の改善は感じら
れない。また体幹部のアトピーがきれいになった事は良いが、顔だけ湿疹が引い
ていかない。
(考察)
この患者は幼少時からのアトピー性皮膚炎との闘病の中で薬剤の多用により肝の陰
陽の虚損があり、それが彼女の素因として大きな影響を与えているものと思われま
す。月干の疏世の不足が牌の陽虚を引き起こしており、牌胃の運化作用の低下により体
が力なく細く、手足が冷えています。牌、月干の虚が血虚を引き起こし、長期にわたる
月経不順や睡眠障害を引き起こしています。肝気の疏世障害により情志が伸びやかさ
を失っており、さらに牌の障害により思慮過度となって気欝となり欝病を発症する基
礎的な条件を形作っていったようです。さらに7年前の環境の変化によるストレスが
心陽の虚損を引き起こして状況が悪化しています。呼吸の浅さ、声の細さ、胸のふさ
がり、神明の暗い感じは心陽虚による宗気不足から来ると思われます。
心虚陽虚証とみて、さらに六十九難を適応して心肝と補う治療を選択しました。心
の陽気が補われたことで宗気が回り出し、胸のふさがりや肩首の緊張が緩解し、睡眠
の改善にもつながったようです。また同時に肝を補ったことで血虚の状態も改善し体
幹部のアトピーも改善していきました。陽経は腸脱経を使う事も多いのですが、脈状
の改善が確認できれば三焦経を用いることがあります。跨脱経は心包経の陽気を下焦
に導く経脈であり三焦経は心包の陽気を直接四肢に巡らせる働きがあるようです。
(この患者は手足の冷えが顕著でしたので・.)
第7診以降は栄火穴を用いました。心陽虚証に栄火穴が適応する場合があると感じ
ます。
第10診の後1年ぶりの月経があった事に関しては証を牌虚陽虚証に変えた事も良
かったとは思いますが、それまでの10回の治療で肝の陽気が充分に補充されていたこ
とも大きかっただろうと思っています。
この方の場合はまだまだ欝的精神状態や体のだるさが、本人が希望するほどには改
善していないのは長期にわたる慢性病であること、毎日仕事をしている事、薬物をや
め切れていないこと等が関係しているかと思います。今後は季節も次第に暖かくなる
こと、顔面部のアトピーの改善が遅れていること、脈が次第に数になりつつある事な
どから考えて、熱に対処する治療へ移行していく可能性があると考えています。
こうした長期にわたる慢性病のプロセスの中では大抵の場合はまず肝腎牌の虚損が
あり、その後に心肺の虚損が加わることが多いかと思います。

後で述べる相火の理論から言えば五臓の陽気の真の源は相火である心包にあり、も
しも心陽虚の兆候があればまず心陽を補うことによって牌肝腎の陽気を効果的に補う
事ができる局面があると考えています。