心の治療の実際・10「不安障害 奔豚気病」

4. 不安障害、パニック障害(以下パニック障害)
パニック障害という病気があります。池田先生は以前より奔豚気病のお話を折に触
れてお話し下さって、知識としては知っていましたが、ある時期まではこの病気のこ
とがピンと来ませんでした。何か更年期の女性の不安感が極端に高じた状態で、なか
なかお目にかかれないというような考えでおりました。
あるときに本を読んでいて奔豚気病は現代医学でいうパニック障害のことである
と。中医学のほうでもそういう解釈に基づいて治療が行われて成果が上がっていると
いう話を知り、それからはそういうつもりで病気を観察して治療に役立てています。
まず、パニック障害とは、強い不安感を主な症状とする精神障害です。その発作
は、満員電車などの人が混雑している閉鎖的な狭い空間、車道や広場などを歩行中に
突然、強いストレスを覚え、動停、息切れ、めまいなどの自律神経症状と強烈な不安
感に襲われます。漠然とした不安と空間の圧迫感や動倖、呼吸困難でパニックに陥
り、「倒れて死ぬのではないか」などの恐怖感を覚える人が少なくありません。その
他にも手足のしびれやけいれん、吐き気、胸部圧迫のような息苦しさなどが発症する
場合もあります。

こうしたパニック障害は近年日本でも増加傾向にあります。病院では安定剤、睡眠
薬などの向精神薬を処方する薬物治療が主流ですが、あくまで症状を押さえる対処療
法であり、病気の原因そのものに対しては無力です。その為、近年我々の治療室へ誠
灸治療を求めて来院する方が増えています。
パニック障害に適応されるという奔豚気病をおさらいしてみます。
奔豚は『金匿要略』には「奔豚気病」と書かれております。『金匿要略』奔豚気病
脈証井治第八に「師日、奔豚病、従少腹起、上衝咽喉、発作欲死、復還止、皆従驚恐
得之。(奔豚病は下腹部から何かが上昇して胸、咽喉を突き今にも死にそうな発作が
起こる。その発作が治まると普通に戻る。これは驚き、恐怖が原因である。) と記載
されています。
奔豚は気逆症状と水毒症状に属し、『難経』五十六難によれば、五臓の積の一つで、
腎の積のこととしています。症状は、少腹より胸部や咽喉に気が上衝し、発作時には
苦痛が激しく、腹痛や、往来寒熱を発し、長期に及ぶと咳逆、骨痩、少気などをあら
わします。多くは、腎臓の陰寒の気の上逆、あるいは肝経の気火の衝逆によりおこり
ます。
「奔豚の病は、少腹より起こり、上って咽喉を衝き、発作すれば死せんと欲して復還
り止む。(『 金匿要略』奔豚気病)
「発汗後、其の人瞬下倖する者は、奔豚を作さんと欲す。(『傷寒論』太陽病中)
「それ奔豚気は腎の積気なり、驚恐憂思の生ずる所より起こる(中略)気上下に遊走
すること豚の走るが如く、故に奔豚という。(『諸病源候論』)