心の治療の実際・1「心の治療に至った経緯」

「心の治療の実際」:隅田真徳  (司会:神岡孝弘)

一昨年「心虚証の研究」を発表しました。その際今まで本会で常識とされてきた「心に虚なし」の解釈は実はあまり歴史のあるものでは無いこと、中国では2000年 来の中国医学の思想史において類似の解釈が探すことができないこと。さらに経絡治療の先人達もそうした解釈に対して公に疑問の声を上げて来たこと。合理的 に考えてそうした解釈が成り立ちにくいと思えることなどを列挙して、心虚、心実証の研究を深めたいという思いを聞いて頂きました。

昨年の20周 年の際にもお時間を頂きましたので、日本の鍼灸医が歴史的に中国鍼灸学習の手引きとしてきたとされる「鍼灸聚英」の中から、心心包の経脈をどのような病症 に用いてきたかを皆で一緒に見ていく機会を得ることができました。循環器疾患や精神疾患はもちろんのこと、呼吸器疾患や出血症状等思いの他広い範囲にわた り心心包の経穴が治療に応用されていた様子を垣間見ることができました。

今回は「心の治療の実際」と題して治療室で私がどのように心心包を用いた治療を行っているかをまとめて発表したいと思います。

その前に先ず私が心の治療に至った経緯を説明致します。そもそもはかなり以前ですが夏期研において鹿児島漢方の先生方から鹿児島には「相火の鍼」と称して 心包経に鍼をする先生がいる、自分たちも試してみたところこれが意外と良い効果がある、という話を聞いた事がありました。その時は「そういうこともあるかもしれないな」とは思ったもののさほど情熱を持って追試するという程ではありませんでした

その後何年かして、ある会の先輩 から心包と腎を補うという治療をしていただことがありました。その当時私はめまい等でかなり調子が悪かったのですがそのときの治療は心地よくまたいつになく良い効果を感じました。それからは興味を持ち自分なりに心・心包の経穴を用いた治療を試み、又カルテにも記載するようになっていきました。

そして数年前からテキスト編纂のために本会の幹部の先生方と親しく交わり議論をさせていただく中で「心に虚無し」の問題がだされ、何人かの先生から御自分も治療の中で心心包を用いて治療をしていると言う話が出ました。「そのうちこういったことも会の中で公に議論できる様になったら良いですね」と言う話になり、その時の為にと色々調べた内容が一昨年の「心虚証の研究」の発表につながっていきました。

そういうわけでこうした心の治療も、何か私一人の突然の思いつきといったようなものではありませんので、その点は誤解なさらないようにお願い致します。

又私がこうした治療を始めてからまだ数年しか経っていませんので、まだ理論的、技術的にも未熟な点は多いとは思いますが、そのあたりは斟酌してお聞き頂く様宜しくお願いいたします。

まずはいくつかの病症に分け、その病理などもおさらいしていきながら、できるだけ漢方鍼治療の理論に沿った形でお話ししていきたいと思います。